毎晩のように下町の渋い居酒屋を飲み歩いているという謎の女性(?)、魔女っこれい。美味い酒と肴を感知する特殊な触覚をもち、ピンときたら即入店! 確実に名店を探り当てるといいます。当連載は、そうして出会ったオジサン好みの名酒場を氏の実況中継で紹介してもらう酔いどれコラムです。

第一夜 月島 岸田屋

酒が私を呼んでいる。血液の成分はほぼお酒。酒の魔女「魔女っこれい」と申します。

まだ空が明るいうちに、用事を済ませて向かうは都営地下鉄大江戸線月島駅。

月島と言えば「もんじゃストリート」。もんじゃ焼きの専門店を集めた全長400メートルにも渡る商店街で、その数100店舗以上! こんなに必要あるかな…と思うんですが、どこのお店もお客さんで賑わいを見せています。

そんな「もんじゃストリート」をもんじゃ横目に歩いていると、一軒の居酒屋が見えてきます。今日のお目当ての店、「岸田屋」さんです。

開店は16時なのですが、15時くらいから並びができ始めるので開店と同時に入りたければ最低でも30分前には並んでいたほうがいいです。
この日は、15時半に到着して並びも3人。開店と同時にお店に入ることができました。
大きく「酒」と書かれた暖簾をくぐり店内に入ると、古い時代の酒場にやってきた気分になります。
真壁が茶色く変色して店内は薄暗く、吊るされた電球が酒を照らします。

戦前から酒屋として営んでいた岸田屋さん。
戦時中、政府が決定した決戦非常措置要綱にもとづき、国民の楽しみであった喫茶店や料亭が軒並み閉店に追いやられたそうです。
そこで、岸田屋さんは酒屋から「国民酒場」に看板を掛け替えて大衆の憩いの場所に。歴史の名残りでしょうか、一歩店内に足を踏み入れるとほっと心が癒されるような雰囲気があります。

【ミスらん酒】 レモンハイ

岸田屋さんに来たらまずレモンハイを頼みます。甘さがなくドライなレモンハイ、焼酎の味が際立ちます。「まず生でしょう?」という声が聞こえてきそうなものですが、「牛にこみ」に合わせるならレモンハイかなと。暖簾をくぐって煮込みの香りに包まれた瞬間に他の選択肢が飛んでいってしまうんです。

【ミスらん肴】 牛にこみ

岸田屋さん名物の「牛にこみ」。一皿で様々な部位、食感を楽しめます。一皿で二度も三度も美味しい、牛にこみ。レモンハイの酸味が口をすっきりさせて、牛にこみもレモンハイもすすむ。まさに魔法のような組み合わせです。

コの字カウンターをぐるりと囲むように、黒い板に白い文字のお品書き短冊が並びます。見渡すと魚料理が多い。ここ月島駅から築地市場まで車で7分。豊洲市場も車で9分の距離。あまりにも市場がご近所で、最高の冷蔵庫があるみたいですね。

いい魚が簡便に仕入れられることもあるでしょうが、岸田屋さんの天井に注目していただきたい。

びしっとたくさん貼り付けられた魚拓のあまりの凛々しい姿は、これをつまみに一杯やれるぐらいです。
今は亡き先代は釣り人で、この立派な魚拓は先代とご近所の釣り仲間たちが釣り上げた魚たちだそうです。

古くから魚料理にはこだわりがあったのでしょうか。焼き魚、煮魚を一品は頼んでいただくとわかるのですが、魚の大きさと旨味の詰まりかた、毎度感動してしまいます。

【ミスらん肴】 子持ちカレイの
煮付

【ミスらん酒】 樽酒

「子持ちカレイの煮付」に合わせたい吉野杉の樽酒。レモンハイを飲み干したら、じっくりと樽酒を嗜みます。これが魚料理に合うんです。心地よい樽の芳香と力強い米の旨味とすっきり喉を通る冷えた酒。魚の味を格段に引き上げます。

おつまみをいくつもつまむと、これだけでお腹が膨れてしまいそうなものですが岸田屋さんはご飯と汁物も外せません。

【ミスらん〆】 おにぎり
(+なめこ汁)

香の物がちょこんと添えられたおにぎり、食べてしまうのが勿体ないと感じるほど完璧なヴィジュアルでこのまま神棚にお供えしたい。
合わせて頼みたい、汁物。はまつゆ、なめこ汁、いわしつみれの吸物があります。どれを頼んでも天国に行けますから、あとはおにぎりとの食べ合わせ次第でしょうか。この日は「なめこ汁」。

現代は、こんなにご馳走に溢れ、何を食べるかどれで飲むか迷ってしまう岸田屋さんのお品書きですが、戦後の開店当初は食糧難で、海藻を焼きそば風に炒めて出していたそうです。先代の頃には、岸田屋さんの名物「牛にこみ」が定着していたと教えていただきました。
居酒屋も時代時代で形を変えているのですね。

いい酒、ご馳走様でした。

さて血も潤ったところで、まだまだこれからという気持ちになってきました。次はどこの居酒屋へ行きましょう。


本日のお会計

3650

  • レモンハイ500円
  • 樽酒1100円
  • 牛にこみ600円
  • 子持カレイ煮付700円
  • おにぎり350円
  • なめこ汁400円
【下町★渋グルマン度】
理想的なTHE居酒屋度
煮こみウマッ度
これなら並びも苦じゃない度
岸田屋
住所:
東京都中央区月島3-15-12
営業時間:16:00~21:00 (火~土)
定休日: 日・月・祝日
TEL: 03-3531-1974
※予約不可、カード・電子マネー不可

PROFILE
魔女っこれい
60歳のおじさんです。ワケあって若い女の身体で飲み歩いてます。 https://twitter.com/majyokkorei

イラスト:丸岡九蔵

売上ランキング