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群馬・桐生刺繍 "ハンドラー”のガンジーセーター
ナイジェル・ケーボンのデザイナー、川島友美氏が2022年からスタートさせたニットブランド「L/M(エルエム)」。ヴィンテージのワークウェアを意識した大人の品があふれるアイテムは今の気分にぴったりで、いま注目すべきブランドのひとつです。そんなL/Mの看板であり、今シーズンからリリースしているのガンジーセーター。コシのあるアダルトウールを使ったシンプルな一枚は、日本の技術や素材によって作られています。今回、新たに完成したガンジーセーターは、一人の刺繍職人、“ハンドラー”に惚れ込んだ川島さんとの出会いで実現しました。
ナイジェル・ケーボンのデザイナー、川島友美氏が2022年からスタートさせたニットブランド「L/M(エルエム)」。ヴィンテージのワークウェアを意識した大人の品があふれるアイテムは今の気分にぴったりで、いま注目すべきブランドのひとつです。そんなL/Mの看板であり、今シーズンからリリースしているのガンジーセーター。コシのあるアダルトウールを使ったシンプルな一枚は、日本の技術や素材によって作られています。今回、新たに完成したガンジーセーターは、一人の刺繍職人、“ハンドラー”に惚れ込んだ川島さんとの出会いで実現しました。
各国の古着を研究し、そこに独自の解釈を加えて世に送り出すL/M。「男性(Mens)も女性(Ladies)も着られるニット」をコンセプトに、アイテムにはLとMの刺繍が入ります。今回、Beginのためだけに作ってもらったガンジーセーターに“ハンドラー”と銘打ったワケは、このLとMのハンドル刺繍にあります。
フィッシャーマンセーターの元祖といわれるガンジーニットといえば、長方形のガーター編みや太いリブ編みなど肩回りの意匠が特徴。さらに漁師たちが明かりの少ない船上でも前後間違えずに着用できるよう、前下がりと後ろ下がりをつけず、前後対称に編み上げているのも、ワークならではのディテールです。この“前後ろ、両A面で着られる” ガンジーセーターの特徴を活かしたのが本作。Mの刺繍を首元に1点、Lの刺繍を袖口に1点入れ、前と後で着た時にセーターの見え方が異なる仕様に。これによって、見た目はシンプルなのに、2wayで楽しめる、ガンジーセーター固有のウマ味を生み出してくれるのです。
無骨で無秩序なのに温もりもある。
手間と時間がかかる反面、
渋いい風合いに育ってくれる。
ハンドル刺繍の魅力はこれに尽きます
トレンドに左右されない、オーセンティックな服作りが信条の川島さん。ブランドがスタートして約1年。現在はガンジーニット、スウェットニット、ニットキャップを主力のラインナップとしていますが、その全ては、ヴィンテージウェアがベース。機能性の追求である伝統的意匠が、着たときに濃厚なコクをもたらすヴィンテージ特有の魅力を、デザインへと昇華させているのです。
生産は、これまで川島さんがデザイナーとして携わった職人や工場に依頼。ガンジーセーターのボディも、長野県の工場で製造しています。「ニッターが減っているいま、信頼を置く腕のいい工場に作ってもらえる事は当たり前なことではありません」。30年にわたり服作りに携わる川島さんの実績と人脈が、L/Mに繋がっているのです。
L/Mのアイテムには、ブランド名を冠したLとMのイニシャルが入ります。このイニシャルはチェーン刺繍と呼ばれるもの。約150年前にヨーロッパを中心に発展したチェーン刺繍は、洋服などの装飾として入れられていました。ヴィンテージのワークウェアやカレッジユニフォームに入れられる“ネーム刺繍”でお馴染みですよね。一定方向に直進するミシンに対し、ハンドルミシンは針と布を自由に動かし、絵を描くようにステッチを入れることができます。操作はミシン台の下のハンドルを回すだけ。約150年前に考案されたこのプリミティブな構造が、深い表情を実現させるのです。
このチェーン刺繍を入れているのが、“ハンドラー”こと中島雄一さん。群馬県桐生市に自身の刺繍工房「HANDLER Inc.」を構えています。この道20年。コンピュータミシンが主流の現代にあって、1900年代前後のハンドルミシンが片腕です。仏・ボナス社(写真上)のミシンは、世界で見つかっている5台中の2台を中島さんが保有しています。「国内外のアパレルブランドからたくさんの刺繍入れを依頼されますが、アイテムによって数台のハンドルミシンを使い分けるんです」。
この街でもっと
“ハンドラー”を育てたい
群馬県南東部にある桐生は、「西の西陣、東の桐生」と称され、奈良時代から絹織物の産地として知られています。明治時代には海外へ輸出され、外貨獲得に貢献。それまでの手織りから織機へ、家内工業からマニュファクチャへと変遷し、昭和期には「織機をガチャンと動かすたびに、万の金が儲かる“ガチャマン景気”」に沸き、全盛期を迎えます。当時次々と建てられたノコギリ屋根の織物工場は、町のシンボルです。そんな歴史ある織物の町で、中島さんは“営業マン”としてキャリアをスタート。市内の大手刺繍会社に就職し、刺繍とブランドを繋ぐ営業部で10年近く務めた。「クライアントの意向と、作り手(工場や職人)のできることが異なることはしばしば。その仲介役としての経験が、職人となったいま大きく活きています。
L/Mの川島さんも「中島さんから“できない”という言葉を聞いたことがありません。ブランドのコンセプトをくみ取ってカタチにしてくれるのはもちろん、納品スケジュールとか価格とか、そういう生産面にも相談にのってくれるのですごく心強いんです」と、中島さんに大きな信頼を寄せています。
そんな元営業マンの中島さんは、懇意にしていたハンドルミシン職人のすすめでハンドルミシンを操作。気軽な気持ちで始めたところ、みるみるうちにハマり、気が付いたら独立していたそう(笑)。「もともと古いものや美術が好きで凝り性。刺繍は身近な存在だったし、僕にとっては自然な流れでした。絵を描くのは苦手だけど(笑)」。
今では現存する機械も、その機械を扱える職人さんも極めて少ないため、チェーン刺繍は希少な技、アイテムになっています。「桐生でハンドルミシンを扱う職人はわずか数名。僕が好きなこのミシンと刺繍が、100年後も残っていてくれたら嬉しい」。現在、HANDLER Inc.では若手職人の募集も行っています。
前下がりと後ろ下がりをつけず、前後対称に編み上げているガンジーセーターがベース。チクチクしにくい、日本製のアダルトウールでヴィンテージならではの度詰め生地に。首元と片腕に1か所ずつMとLのハンドル刺繍を配置。これによって、前後で着た時に見え方が変わります。袖口を折っても、チラっと見える位置にもこだわりました。
ボディはLサイズ相当のワンサイズ展開。身体に沿いすぎないよう、ほんのりユルめのボックスシルエットに設計されています。中島さん(左)180cm、川島さん(右)162cm。(サイズ/着丈68cm、身幅57cm、肩幅59cm、袖丈57cm)
最後に
7月の取材にはじまり、8月の販売スタート。連日の灼熱地獄のなか、ホットなアイテムでスイマセン(汗)。数台しか現存しないハンドルミシンでしか作れない、職人の技巧と上質な雰囲気をもった特別な本作。受注生産のため、この時季に買っておかないと手に入らないんです。川島さんがデザインし、中島さんが一点一点丁寧に刺繍を入れてくださったおかげで、想像を遥かに超えるガンジーセーターが完成。技術と素材にこだわったのに加え、無地なのにしっかり個性がある。雄々しさだけでは胃もたれするようになった大人には、最良の一枚ではないでしょうか。
写真/宮前一喜(工房取材)、中島里小梨(静物) 文/編集部
L/M(エルエム)について
古着を愛する大人のためのUNISEXブランド。L/MはLサイズMサイズ、LADIES MENS を表します。それぞれのジェンダー、シーンに合わせて選べるアイテム。時代とともに簡略化して省かれてきたテクニックと素材を大切にし、古き良きFASHIONの楽しさを追究します。
Instagram:@lm_craft_vintage
■ サイズスペック(cm)
着丈 | 身幅 | 肩幅 | 袖丈 |
---|---|---|---|
68 | 57 | 59 | 57 |
編集後記
「お好きなモノを刺繍しますよ」と、取材中に中島さんが作ってくれたチェーン刺繍のワッペン。スマホのライブラリに残しておいた、お気に入りのチーズケーキを刺繍してもらいました(笑)。表面の焼きムラ、底面のクッキー生地は糸を重ね、立体感をしっかり表現。工房では刺繍入れのサービス(1点1000円~)もあるそうなので、お気に入りのTシャツやハンカチを持ち込んではいかがでしょうか。(ウラヤマ)
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