Begin Market(ビギンマーケット) COLUMN ARTICLES 「鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡」刊行記念Special インタビュー

2026.07.21

「鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡」刊行記念Special インタビュー

 元ノルウェー国立バレエ団プリンシパルの西野麻衣子さんは2016年公開の映画「Maiko ふたたびの白鳥」で、出産後の劇的な復帰を遂げる姿が大きな話題となりました。それから10年。回想録「鏡の中の私へ バレリーナ西野麻衣子の軌跡」が刊行されました。

15歳で渡英~ノルウェー国立バレエ団へ

 西野さんは大阪生まれ。6歳からバレエをはじめ、地元の橋本幸代バレエスクールに学びました。幼少からバレエに適した体格で、同年代の女の子よりも背が高く細身でした。

 バレリーナになると決意したのは8歳。母親に連れられて英国のロイヤル・バレエ団の日本公演を見たときでした。

「海外でバレエをしたかったんです。ヨーロッパで踊りたいと憧れました」

  

ノルウェー国立バレエ団『アンナ・カレーニナ』 

 道を開いたのは、スイスの名指導者ハンス・マイスター氏。氏の下で研鑽を積んだ後、15歳で英国の名門ロイヤル・バレエ・スクールに入学し、世界中からのプロ志望者と切磋琢磨しました。

 1999年、19歳でノルウェー国立バレエ団に入団。2005年に25歳で同バレエ団初の東洋人プリンシパル(最高位)に昇格しました。

 厳しい競争で評価を維持する日々は熾烈で、怪我のリスクも高く、キャリアの保証もありません。その中で栄光の頂点を極めたからこその孤独も抱えました。

「バレエは繊細な世界です。一瞬をどれだけ完璧に捉え、表現できるかが大事です。厳しくも美しいので皆がのめり込んでいくし、私も同じでした」

 

イリ・キリアン振付『ワン・オブ・ア・カインド』

 プロになってからは、バレエ団を代表するダンサーとして、古典作品だけでなく巨匠イリ・キリアン氏の詩的な作品群の主要な役を務めました。

「ノルウェー国立バレエ団の看板を背負うので、誇りと同時に常にプレッシャーと責任感を強く感じていました」

 私生活では、国立オペラハウスの技術部門で働くノルウェー人の夫と結婚し、一児に恵まれました。ノルウェーに受け入れてもらえたことに感謝しています。

「心は日本人。でも生活の拠点はノルウェーにあります」

 

ノルウェーでのオフショット

 転機となった作品がバレエの代名詞『白鳥の湖』でした。

 悪魔の娘オディール(黒鳥)の32回転のグランフェッテでは片足で軸を崩さず回り切る強さが求められます。西野さんは確かな技術を身に付けたうえで、ドラマを大切にしてきました。

「ただステップをこなすだけではいけないんです。物語を語らなければならないんですね。感情の糸を切らさず、心でつなげながら踊りました」

出産4か月後『白鳥の湖』のリハーサル

 西野さんを支えたのは多くの人たちでした。両親や家族、バレエの恩師、気心の通じた英国時代の寮のルームメートにはじまり、夫や子育ての経験のある元ソプラノ歌手の義母らの協力は欠かせませんでした。

 「人との出会いが大きかったですね。アーティストとしての私を受け入れてくれる理解者がいたからこそ、やりたいように生きてこられました」

 引退~現在とこれから

 プリマ・バレリーナとしての最後は、本人も予想できない幕切れでした。

 定年が迫った2020年には新型コロナウイルス感染症が世界的に流行しました。2021年、引退公演として『オネーギン』タチヤーナ役を踊ることになりましたが、満場の喝采を浴びる場とはなりませんでした。ストライキの影響を受けて一夜限りの無観客公演として行われ、テレビ放送されたのです。

「心残りはありませんか」との問いに、こう答えました。

「コロナ禍になって自分を見つめる時間ができました。これから私に何ができるのか、どういうことをしたいのかを考えました。最終的には心穏やかに、悔いなく引退できました」

ギャラリーでのインプロビゼーション(即興)ダンス

 引退後はフリーのダンサーとなり、ノルウェー王国の文化面でのアンバサダーとしても活躍の場を広げています。

 2022年には自身のスタジオ「Maiko」をオスロに開設。バレエとボディコンディショニングを行っています。子どもから高齢者まで幅広い世代が体と心を整える場です。日本での活動にもさらに力を入れていくそうです。

自身のスタジオ「Maiko」での指導の風景

「日本の女性にもっと輝いてほしいですね。踊りを通して、ノルウェーと日本との架け橋になりたいです。バレエに出会った日本で、自分の人生をシェアするのは恩返しでもあります」

 西野さんは踊り手として第一線を退きましたが、指導や普及活動にたずさわり、今も新たな舞台を歩み続けています。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

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