偏愛レボリューション
イラストレーター・naohigaさんの寅さん愛に溢れた「寅旅」とは? 柴又の街を“寅さんぽ”♪
[LaLa Begin2022年 6-7月号の記事を再構成]
偏愛レボリューション~Vol.13「寅旅」naohigaさん
今も現役、第1作にも登場する「矢切の渡し」船着場でスケッチ。
どこか見覚えのあるタッチで、フーテンの寅さんを描いているこの女性。本誌の連載『ツレヅレハナコの旅先晩酌』でもおなじみのイラストレーター、naohiga(ナオヒガ)さんが今回の偏愛ビトです。
映画『男はつらいよ』シリーズが大好きで、なにやら“寅旅”なるロケ地巡りをしているそう。その旅ノートが凄いらしいという噂を聞きつけ、さっそく調査。今回はライトに寅さんの地元、葛飾・柴又の街を一緒に“寅さんぽ”しながら、作品の魅力や寅旅の楽しみ方などをお聞きしました。
寅さん像のある柴又駅から寅さんぽ開始。映画の舞台となった、帝釈天の参道周辺を歩きます。
なにげなく観始めてノンストップで全50作
寅次郎と妹さくらの銅像がある柴又駅からスタート。映画にも数えきれないほど出てくる帝釈天の参道が見えると、一同のテンションが高まります。ナオヒガさんはどんなきっかけでファンになったのですか?
「今思えば最初の出会いは映像ではなく名言集だった気がします。それである時にふと、なにげなく『男はつらいよ』の第1作を借りて観てみたら、もう止まらなくて。ノンストップであっという間に全50作を駆け抜けました(笑)毎日自宅にこもって黙々とイラストを描いていたので、気分転換にどこか旅行でもしたいなって思っていたんですけど、旅慣れてないから正直どこへ行けばいいかわからなくて。そういえば寅さんって年中旅してるよなって思いついて。」
ロケ地に行ってみるともう跡形もないことも。上写真は第2作の冒頭で寅さんが夢から覚める旅館があった、三重県の柘植(つげ)駅。
何がそんなに心に刺さったんでしょう?
「まず柴又の家族や近所の人たちとの、押したり引いたりドタバタな掛け合いが楽しくて。丁々発止のやりとりの中に、名言集で読んだ長セリフが出てきたりして、笑うつもりが泣いてたり。たまたま最初に借りたDVDがなぜか英語字幕付きで、それもまた面白かったんです」
ちなみに超初心者が最初に観るにはどの作品が良いですか?
「色々な楽しみ方があると思うんですけど、私は断然、作品順に観ていくのがおすすめです。みんながちょっとずつ歳をとって、柴又の街も、旅先の景色も、寅さん自身も変わっていく。それをずーっと観てると、あの茶の間で茶飲み話してる親戚の気分になってるんです」
『望郷篇』のロケ地、函館本線の小こざわ沢駅にて。「静かな駅でしたが、駅前に一軒だけあったお店のおじさんとお喋りを楽しみました」
そうなるともしや、寅旅も作品順に?
「そうなんです、律儀に。だからもうロケ地の跡形もなかったり、観光客もお店も地元の人もいない、次の電車が来るまで何時間!?みたいなことも多いんですけど、その思い通りにならない感じこそが寅さんだなって。そしてシリーズが長いので、この楽しみが永遠に終わらないなっていう嬉しさもありますね。最後の方のロケ地の沖縄にたどり着くまで何年かかるんだろう(笑)」
生きる場所はひとつじゃなくていい
映画にも何度も登場する「柴又帝釈天」には、まさに寅さんが首から下げていたのとソックリなお守りが。しかも寅さんのスーツ柄!
一同は、帝釈天でお守りを買って(上写真)、江戸川の河川敷や「矢切の渡し」の船着場で寅旅スケッチを再現してもらったりした後は、撮影当時、出演者の控え室だったというお団子屋さん(下写真)でひと休み。
寅さんの実家のモデルになったといわれる草団子屋さん。イートインでは特に柔らかな出来たてが食べられます。お土産用もあり。
髙木屋老舗
住所:東京都葛飾区柴又7-7-4
電話番号:03-3657-3136
営業時間:10:00~16:00(喫茶)
定休日:無休
店内には渥美清さんや歴代のマドンナたちの写真がずらり。どのマドンナが印象に残っていますか?
「本当に全員魅力的なんですけど、八千草薫さんはかわいくて好きでした。あと岸恵子さんはとにかく格好いいんですが、売れない画家役でちょっとだけ親近感が。あと役柄として好きだったのは芸者役の太地喜和子さん。第17作『寅次郎夕焼け小焼け』はファンの間でも人気上位の名作です!」
寅さん記念館内のカフェには、ここでしか味わえない「TORAチーノ」や、“トラジャ”豆を使用したコーヒーなどがいただけます。
TORA san cafe
住所:東京都葛飾区柴又6-22-19 葛飾柴又寅さん記念館(葛飾区観光文化センター内)
電話番号:03-3657-3455
営業時間:9:00~17:00
定休日:第3火曜
『男はつらいよ』にハマって、寅旅をするようになって、何か気持ちの変化や生活に影響はありましたか?
「旅することの楽しさを知りました。30代になるまで旅行にさほど興味がなくて、だからこそ行く時はあれやこれや調べすぎてしまって。でも寅さんがトランクひとつでふらっとどこかへ行ってしまい、全国行き当たりばったりの珍道中をずっと観ていたら、テキトーに出掛けたって大概のことはどうにかなるって自然に思えてきて、実際そうでした。近頃は“ワーケーション”という概念も浸透してきましたが、まさに私の仕事なんてどこにいてもできるじゃん、生きてる場所はひとつじゃなくていいんだなって。」
「気づけば寅さんっぽい?帽子を買ってたり、劇中で印象的だった衣装と同じ色の服とか、日常にもこっそり寅成分を忍ばせてます」
「破天荒な寅さんや個性的なマドンナたち、そして寅さんが何をしてもあたたかく迎えてくれる家族を観ているうちに、実際は自宅にこもっていても、気持ちは自由に風通しよくなってきた気がします」
素敵なお話。なんとなく心も凝り固まってしまうことの多いご時世、今私たちに必要なのは、寅さんかも!?
naohigaさん
LaLa Beginをはじめ、多くの雑誌や広告で引っ張りだこのイラストレーター。働く場所を選ばない職業の強みを生かし、寅旅に勤しむ。各話の登場人物になりきって行くと楽しさが増すそう。
調査報告
事前に代表作はいくつか観ていましたが、柴又の街を歩きながら色々なエピソードを伺っているうちに、どうやら魅力に開眼してしまったようで、取材後すぐに全50作を夢中で観てしまいました。むしろなぜ今まで観てなかったんだ。でもこれは大人になったからこそ分かる味わいなのかも。
偏愛調査員
オモムロニ。
雑貨コーディネーター。ユニークでグッドデザインな日用品や手みやげのセレクトが得意。偏愛ジャンルは、プロ野球、ハロプロ、猫。著書に『DAILYGIFTBOOK気持ちが伝わる贈りものアイデア』(文藝春秋)がある。Instagram:@omomuroni
連載
偏愛レボリューション
偏愛は毎日をちょっと楽しくする小さな“革命”! どんなにマニアックだとか、ファン歴なんて関係ないのです。いつの間にか夢中に……あぁ、“好き”があるってしあわせ。そんな偏愛ビトをレポートします。
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※掲載内容は発行時点の情報です。
[LaLa Begin2022年 6-7月号の記事を再構成]写真/押尾健太郎 インタビュー・文/オモムロニ