和歌山の丸編みを知って欲しい
第8弾を迎えた和歌山大莫小、テーマは「タッグスウェット」です。今回も和歌山市内の丸編みファクトリーや染工場など10社が、リスペクトするプロフェッショナルとぺアを組み、クラフトマンシップあふれるプロダクトを完成させました。
和歌山のニッターでは、日本のアパレル産業の黎明期である1960年代から黄金期の1980年代に製造された編み機が現役で稼働しています。幾度となくオーバーホールやカスタムが加えられ、マシンを知り尽くしたエンジニアが限界を超えたテクニックで編んだ生地は、工芸品のごとく感性に響きます。文化や背景を知らない海外で受け入れられていることがその証明だと思います。
繊維産地といえば岡山のデニムが有名ですが、和歌山の丸編みも同程度のポテンシャルを持っています。認知度が低いのは、デニムにおけるジーンズのような生地と製品をイコールで結ぶアイテムがないから。丸編みは、編み機やゲージ、素材の違いで全く異なる生地を作り出します。それを伝える器としてTシャツ&スウェットを立てたのが本企画「和歌山大莫小」です。参加ニッターがイチ押しの生地を持ち寄って作られたアイテムは80を超えていますが、創作意欲は衰えを知らず、今回で8回目を迎え、次回作のアイデアもすで動き出しています。
「自分たちも含めて誰しもが着られるもの。ぱっと見は定番だけど、手に取れば生地の違いを感じる。それが面白さ」と語るのは和歌山大莫小代表の田中さん(豊染工)。
和歌山産地が秘めたるポテンシャルを広めることが目的なので、ギリギリまで価格を抑え、新素材を使った機能性生地や、通常なら商品化が難しいハイスペックな糸使い、メゾンブランドでも使われたニットをさらにアップデートしたものなど、ニッターが普段の制限を取っ払って製作した熱量MAXなアイテムと出会えるのも魅力。個数限定でどれも一期一会のアイテム。琴線に触れるものがあれば、ぜひ手にしてみてください。
日本にはいくつかの繊維産地があります。その中でも「聖地」と呼ばれる場所では希少なビンテージ機械が現役で動いています。例えば岡山デニムなら旧式の力織機、尾州ウールならションヘル織機という具合に。和歌山にも100年前の吊り編み機や米式起毛機を筆頭に、半世紀以上前の編み機が稼働しており、今回も様々なプロダクトで用いられています。古いマシンを安定して動かすため、日々のメンテナンスはもちろん、新機能を付加するため大掛かりなカスタムも実施されています。彼らはなぜ、そのような手間をかけ旧型の機械を使うのでしょうか?
世界に目を向けると、安価で消費サイクルが速いファストファッションがアパレル産業を席巻し、アジアの巨大工場には効率を最大限に重視したマシンが導入されています。コンピューター制御で何万種類ものカットソー生地が生産できる最新鋭機械は、複雑なセッティングも不要となり大量生産を可能としました。日本の産地には、1990年代以降に訪れたアパレルの低価格化で川中のメーカーが海外へ生産拠点を移した結果、価格競争を強いられ設備投資ができなかったという背景もあります。しかし、もし今それが出来たとしても“聖地”の人たちは満足できないのではないかと思います。最新の機械は人の介在する余地が少なく、何か気になることがあっても、機械を止めて手を加えることはできません。クリエイティブのモチベーションは、挑戦と発見です。課題に対して、頭を悩ませ様々な工夫をし、その過程で得られる成功や失敗が気づきを与える。その喜びを得るには油と綿埃にまみれ、機械と会話するしかない。和歌山のエンジニアの方に話を聞くと、手足のように使い慣れた機械は、編みという世界を知るための杖なのではないかという気さえしてきます。そんな賢人たちが和歌山の聖地を支えています。
第8弾となる和歌山大莫小「タッグ・スウェット」はMとLの2サイズで展開します。デザインを担当したのは、国内外のブランドで活躍し、最近では、クリエイティブ・ディレクターを努める「KANEMASA PHIL.」(和歌山大莫小にも参加するカネマサ莫大小のオリジナルブランド)で「TOKYO FASHION AWARD 2025」を受賞した馬場賢吾氏。「10年後も着たい王道シルエット」というコンセプトを受け、今回もベーシックにトレンド感を取り入れた絶妙なアイテムが完成しました。
和歌山大莫小のデザインにおける主題は、素材の良さを引き出し、各ニッターの持ち味がにじみ出る「ミニマル感」。シルエットは着る人を選ばない、ほどよくゆとりのあるモダンなものに。機能面では衿と裾のリブ付け、アームホールにまたぎ二本針ステッチを採用し堅牢性を向上。後衿ぐりには、表地と同じ背当てを採用して品よく仕上げました。裾リブで腰の留まり位置を調整でき、ユニセックスで着られるパターンとなっています。
過去作の黒スウェット(2022年)のクルーネックと比べると全体的に横広なボックスシルエットにモディファイし、ピスネームがリブ位置に変更されています。
素材:ホシに願いを
「Z世代による2種類の吸水速乾糸をダブル使いした新時代スウェット」
素材:シャンブレーカーズ
「丸編みと横編みの超絶ドッキングでニットの常識を覆す!」
素材:フカキンとラクダ固め
「最高級キャメルをフル使い。和歌山大莫小だから作れた超希少ニット」
素材:龍のバスローブ
「表はシャリ味の清涼感、裏は高級タオルの風合いでラグジュアリーな着心地」
素材:撚り道して火遊び
「異番手・壁撚り・ガス焼きetc…とことん趣向を凝らした糸を丁寧に編み立てました」
素材:ZENジャカード
「魔改造ジャカード機が編み出す水墨画のような波模様」
素材:石川台独立宣言
「1950年代のヴィンテージスウェットを糸から再現したど真ん中な名作」
素材:ガッチガチやぞ! 羊なのに!
「定番に見えて、ウールパイル×100年起毛で防寒性抜群のスゴいやつ」
素材:ヨルメリー
「70年の歴史を誇る国民的肌着アサメリーがアウターにアップデート」
素材:名人たちの起毛修正
「試行錯誤が生んだウール裏毛の裏使い。ナチュラル加工で肌当たりもソフト」
前作の「タッグT」の発表の際には、和歌山県の岸本県知事とのタッグ取材が実現。実際に着用した感想に始まり、驚きの発言まで飛び出しました。
和歌山でニットを手掛ける実力派ニッター・染工場の有志とBeginが手がける、和歌山のニットの魅力を世界に発信するプロジェクト。タイトルの「大莫小」(だいばくしょう)は、ニットを表す古い言葉「莫大小」(メリヤス)のアナグラムで「ユーザーもニッターも、みんながハッピーに」という願いが込められている。アメリカのUNION MADE(アメリカの労働組合である「ユニオン」の組合員が作った製品であることを示す表示で、消費者にとっては品質保証の意味合いがあった)をイメージし、その時々のテーマに沿って、参加ニッターが思い思いのニットを開発、同じ形の製品に落とし込む。2021年春の「白T」を皮切りに、第2弾「グレースウェット」、第3弾「白ポケT」、第4弾「黒スウェット」、第5弾「黒T」、第6弾「ネイビージップフーディ」、第7弾「タッグT」、そして最新作「タッグスウェット」と、半期ごとに新作を発表。定番だけど何かが違う、袖を通して初めてわかる和歌山ニッターの想いが随所に詰まったコレクションとなっている。