あなたがもし日本製のTシャツやスウェットをお持ちなら、その生地はたぶん和歌山で作られています。和歌山は、そう言っても過言でないくらい、丸編みニット(主にTシャツやスウェットなどで使われる)の一大産地です。”ニッター”と呼ばれる生地を編むファクトリー、そこでできた生地の洗いや加工を行う”染工場”が和歌山市・紀の川市エリアに集積しています。それぞれのニッター、染工場は切磋琢磨しながら、有する編み機や技術の違いを生かした千差万別の生地を作り、その多様性が世界からも注目される魅力となっています。そんな”和歌山ニッターズ”とBeginでお届けするのが「和歌山大莫小」。毎回テーマを設け、各社が自らの持ち味を存分に発揮した生地を共通ボディへと落とし込む企画です。
第三章は「白ポケT」。初出し、大量生産できない希少なもの、いつかやってみたかったものなど、いつもは黒子役に徹しているファクトリーの、”想い”のこもったプロダクトが今回も集まりました。
和歌山が丸編みニットの“聖地”と呼ばれる理由は、日本最大のシェアを誇ることに加えて、もう一点、“ここでしか編めない生地があるから”とBeginは考えます。和歌山でニットが作られるようになったのは1909年、スイス製丸編み機5台を輸入したのが始まりです。丸編み機は、円筒型のシリンダーに針がびっしり並ぶ構造で、回転しながら筒状に生地を編み立てます。伸縮性に富むソフトな風合いが特徴ですが、驚くべきことに和歌山では、100年前の吊り編み機から、最新スーパーハイゲージマシンまで、あらゆる時代の丸編み機が稼働しているんです。世界中で和歌山にしか現存しない機械も珍しくなく、ニッターは会社の壁を越え連携しながら、実に様々な生地を国内外へ提供しています。
名前を出すことはできませんが、和歌山産ニットの独創性と高い品質は欧米でも認められ、多くのメゾンやブランドで採用されています。ニッターは移りゆくファッション界のニーズや要求に応えるため日々、技術を研鑽。編み機の改造や、糸の開発、染色方法を考案したりと、ノウハウをアップデートし、新たなプロダクトを生み出しています。「伝統とは火を守ることであり、 灰を崇拝することではない」という作曲家マーラーの言葉の通り、100年以上に渡って和歌山がニット産地と呼ばれているのは、先人の築いた場所に安住するのでなく、炎に薪をくべるよう、創造を続けてきたからなのでしょう。和歌山大莫小もそんな精神から生まれた企画。挑戦的なプロダクトが多く揃います。
第3弾となる和歌山大莫小「白ポケT」には、スタンダードとルーズフィット、2つの形をご用意。デザインは、過去2回に続き、国内外のブランドで活躍し、数々のプロダクトを手がけてきたデザイナー馬場賢吾氏が担当。「再来年も着られるユニセックスな白ポケットTシャツ」というリクエストを受けて、男女で違和感なく着られるベーシックなシルエットが完成しました。
素材:スーピマエイジングコットンハイウェットヘビー天竺
エイジングコットンと聞いて、ヴィンテージ加工した生地?と想像する方も多いと思いますが、こちらはいい意味で正反対のものです。紀南莫大小工場の「スーピマエイジングコットンハイウェットヘビー天竺」は、綿なのにシルクのような光沢を持ち、天竺編みでUSメイドのヘビーウェイトTと同じ程度の厚みがあるのに、風合いは至ってソフト。
素材:黒い白T
トリポーラスTMはソニーグループが開発した多孔質カーボン素材です。毎年世界で1億トン以上も排出され、その環境負荷が課題となっていた米の籾殻を原料にした吸着材の一種で、大きさの異なる3種類の超微細な穴が、従来は難しかった高分子物質やウイルスまでしっかりと吸着します。
素材:Monet
ウールには冬物のイメージがあります。でも実際は、原毛の品質や加工によって通年使える優れた機能素材です。そんなウールにまつわる誤解を解くために、夏でも着られるウール生地を作れないかと考えたA-GIRL’S。
素材:クラッシュ天竺
塩縮加工は、強アルカリ性の水溶液で生地を収縮させ、ペーパーライクな凹凸感や小皺を入れる手法です。本来、布帛(シャツなど伸びない織物)に行われる加工で、ニット(Tシャツなどで使われる伸縮性のある編み物)に行うのは不可能とされてきました。
素材:インディアンサマー
インディアンサマーは気候を表す表現で、日本の小春日和とほぼ同じ意味だそう。秋から初冬にかけ、ふと訪れる和やかで暖かい日を何故そう呼ぶようになったのか? 諸説ありますが、個人的に良いなと思ったのは、「神様が冬を前にキセルでタバコを吸い、その煙が暖かな一日を生み出す」というインディアンの言い伝えでした。
素材:フルオーガニックカメリア
椿オイルは椿の種から作られます。1000年以上の歴史を持ち、食用、化粧、灯火燃料など幅広く利用されてきました。美容用品として使われることが多いのは、椿オイルの主成分であるオレイン酸トリグリセリドが人間の皮脂にも含まれているから。
素材:S9
S9(エスナイン)には、シワない、透けない、洗濯してもヘタレないという意味があります」そう話すのは美和繊維工業の代表、風神充宏さん。
素材:未完のポケT
リプロという仕事がニッターにはあります。ブランドやメーカーから希少な古着を預かり、糸や素材、編み方などを研究・分析し、当時の生地を現代に蘇らせる。そんな素材のリプロダクションを十八番とするのが、風神莫大小です。
素材:令和ノイルノイル
ノイルとは紡績の工程で落ちる短繊維のこと。「ノイルノイル」と2回繰り返すのは、ノイルシルク(落ち絹)とノイルコットン(落ち綿)を混ぜた糸が使われているからでなんです。
素材:ローズペトールローサ アイス
化粧とは、繊維業界では生地の仕上げ加工を表す言葉です。様々な加工剤を調合・機会処理することで、素材に柔らかさや光沢を与え、防菌、消臭、UVカットなど多様な機能性も付与できる。
素材:バランサーキュラー4双スーピマコットン天竺
バランサーキュラーは世界で丸和ニットにしか作れないオンリーワンな生地です。最大の特徴は丸編みニットに1920本の超極細ナイロンを経糸として組み込み、織物の風合いと編み物の着心地を両立したところ。
和歌山大莫小は素材にフォーカスする企画です。アイテムはごくシンプルな無地のTシャツやスウェット。その素材の良さ、違いを伝えるため、毎回取材と重ねて写真と文字にしていますが、やっぱり実物をお見せしたい! 百聞は一見に如かず! そんな思いから、第2弾のグレースウェットでは、東京・大阪・福岡でポップアップストアを開催しました。製作したニッターやデザイナー、私たちBeginスタッフが店頭に立ち、和歌山ニットの魅力を伝えました。もちろん今回も開催予定。期間は短いですが、お近くの方は、ぜひ足をお運び頂き、袖を通して、和歌山ニットを体感してみてください!
POP-UPの情報は近日公開予定
和歌山でニットを手掛ける実力派ニッター・染工場の有志とBeginが手がける、和歌山のニットの魅力を世界に発信するプロジェクト。タイトルの「大莫小」(だいばくしょう)は、ニットを表す古い言葉「莫大小」(メリヤス)のアナグラムで「ユーザーもニッターも、みんながハッピーに」という願いが込められている。アメリカのUNION MADE(アメリカの労働組合である「ユニオン」の組合員が作った製品であることを示す表示で、消費者にとっては品質保証の意味合いがあった)をイメージし、その時々のテーマに沿って、参加ニッターが思い思いのニットを開発、同じ形の製品に落とし込む。第3弾は「白いポケットT」がお題。左脇に挟み込まれたピスネーム、通称「オレンジマウス」がトレードマーク。
第1弾の「白Tシャツ」に引き続き「白ポケットTシャツ」にも、生地の特性に合わせ、スタンダードとルーズフィット2つのシルエットを製作しました。ポイントはネック部分にあります。
スタンダード
上品さやソフトな着心地を重視したい素材にはスタンダードを採用、こちらは王道デザインの衿ぐり、「フライスダブル付け始末」が特徴です。対して、程よい肉感やハリのある表情、包まれる気持ち良さを重視したい素材にはルーズフィットを採用、こちらのネックはタフな「共地バインダー始末」でややカジュアルな雰囲気になっています。
ルーズフィット
前回の白Tシャツと比べ、全体的に着丈が短くなり、身幅、裾幅、袖口幅を少し大きくモディファイしたシルエットへチェンジしました。詰まり気味の衿ぐりは、古き良きアメリカンワークスタイルの無骨な雰囲気をイメージしています。テーマとなった「ポケT」のルーツは諸説ありますが、1950年代に誕生したディテールで、当時アンダーウェアだったTシャツをアウターで着られるようにと、ミリタリーシャツの胸ポケットからインスピレーションを受け、Tシャツに採用したのが始まりと言われています。今回、ポケットサイズは視覚的に自然なバランスで馴染むよう設計。ボディは70’sのパキスタンコットンで作られたバンドTをモチーフに、当時のクラシックなムードと耐久性を両立するため、袖口と裾に天地引きステッチを採用しました。両型とも、裾を出しても、パンツインしても綺麗に着用でき、ユニセックスで使えるシルエットになっています。左脇には、前回のスウェット企画同様、スマイルマークのピスネームを挟み込んでいます。
オレンジマウス
左脇に挟み込間れたピスネーム通称「オレンジマウス」は和歌山の特産物からイメージしたカラーリングで、スマイルマークがモチーフとなっています。