読んでから観る? 観てから読む? 読書の秋、文学が原作のバレエの世界へ

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この秋、東京バレエ団で上演される『オネーギン』。名作文学から生まれたバレエ作品で主役をつとめる秋山瑛さんと宮川新大さんに舞台への想いと、読書について伺いました。
プーシキンの原作から生まれた、ドラマティック・バレエの傑作

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文豪アレクサンドル・プーシキンの小説『オネーギン』は、ロシア文学史上最も重要な韻文小説(詩のように韻を踏んだ小説)と言われています。まずは簡単にあらすじを紹介しましょう。
舞台は1820 年代のロシア。田舎に暮らす読書好きの娘タチヤーナは、妹オリガの婚約者であるレンスキーが連れてきたオネーギンの、都会的で洗練された姿に恋に落ちます。初めての恋に胸を高鳴らせたタチヤーナは、勇気を振り絞って想いを綴った手紙を送りますが、オネーギンはその気持ちを拒絶。その後、オリガと親しげに振る舞い、これに激怒したレンスキーと決闘することに。悲劇的にも、オネーギンは親友を銃で撃ち殺してしまいます。
数年後、華やかなサンクトペテルブルクの舞踏会で、オネーギンは公爵夫人となったタチヤーナと再会。彼女への愛に気づき気持ちを告げますが、タチヤーナはその想いに応えることはなかったのでした。
田舎の地主の家族の生活からサンクトペテルブルクの華やかな上流社会までが描かれた小説は「ロシア生活の百科事典」とも呼ばれ、その詩的な表現も含め。作者のプーシキンは生誕200年を経た現在もロシアでは国民的詩人とされています。
『オネーギン』池田健太郎訳 岩波文庫
ロシア文学史上に燦然と輝く全8章からなる物語。詩の形式で書かれた原作の韻文を翻訳版では散文(小説の形式)にしており、さらに2006年に改版となっているため読みやすく、すれ違う二人の関係と心の機微が伝わってくる。
https://www.iwanami.co.jp/book/b248151.html
この小説をバレエ作品に仕立てたのが天才振付家と呼ばれるジョン・クランコ。
バレエ『オネーギン』は世界中でも上演することを許された限られたバレエ団のみが舞台化していますが、東京バレエ団ではこの秋、14年ぶりにこの名作がミラノ・スカラ座からの重厚感あふれる舞台美術・衣裳とともに披露されます。
読書好きの秋山瑛さんが解説。原作とバレエ、それぞれの魅力

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今回の公演でタチヤーナ役をつとめる秋山瑛さんは、東京バレエ団で『オネーギン』を上演することが決まってから、初めて原作を読んだそう。
「バレエではオネーギンが少女時代のタチヤーナからの恋文を破いて返し、後にタチヤーナも同じようにオネーギンからの手紙を破いて彼を拒絶するというとても印象的なシーンがありますが、原作にはそれがなく、むしろ手紙をきちんと保管していて読み返したりしていたことに読んでみて驚きました。バレエでのオネーギンには掴みどころのない冷たい男性に感じられる部分もありますが、原作を読むとバレエでは描かれていないオネーギンの姿も見えてきて、彼へのイメージが変わりました」。
役作りにおいて、原作を読むことは参考になる、と語ります。
「バレエは言葉がないので、物語の中で自分の演じる人物がどんな人なのか、何を表現したいのか、その場面では何を考えていて何を伝えたくて踊っているのかということを明確に自分自身の中に持っていることが、私にとって演じる上ですごく助けになります。特に『オネーギン』は原作を読むことで、人物や作品に少し近づけるように思いました」。
読書家の秋山さんは、お気に入りの本もいっぱい。
「アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』のシリーズ、『赤毛のアン』のシリーズ、『大草原の小さな家』のシリーズは、昔から大好きで何度も何度も読みました。本のジャンルは問わずに好きなのですが、特に日常生活を鮮やかに描いているようなシリーズの作品が好きです。ハリー・ポッターの原作も、発売日に父に毎回買ってきてもらうくらい大好きでした」。
アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』岩波少年文庫
夏休み、イングランドの湖水地方に滞在するウォーカー家の四人兄弟が、小さな帆船に乗って湖を探検したり、無人島で過ごしたり、アマゾン海賊と対決したり。1930年の刊行以来、世界中の子どもたちに愛されている全12巻の冒険小説。
https://www.iwanami.co.jp/book/b269645.html
ルーシー・モンゴメリ『赤毛のアン』新潮社
ちょっとした手違いから、老兄妹に引き取られたやせっぽちの孤児アン。愛に飢えた少女が数々の事件を巻き起こしながら乙女へ、そして母へと成長してゆく姿を描いた、永遠の名作。映画やアニメ、舞台などでも人気。全11作品。
https://www.shinchosha.co.jp/book/211341/
ローラ・インガルス・ワイルダー『大草原の小さな家』福音館書店
アメリカの西部開拓時代に、ウィスコンシン州の森からカンザス州へと移り住み、こんなんや危機を乗り越えながら自らの手で生活を営むさまを描いた父と母、姉のメアリイと主人公ローラの物語。前作の『大きな森の小さな家』に続く作品で、シリーズは全8作品。
https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=828
映像や舞台から原作に興味が広がる宮川新大さん

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一方、オネーギンを演じる宮川新大さんは、クランコの振り付けを手掛かりに、人物像を探っているところだそう。 「東京バレエ団の団長でこの作品に深い思い入れのある斎藤友佳理さんからは、オネーギンのキャラクターを作るにあたり“原作ではこうだから”というお話もありましたが、テクニックもすごく大切な作品なので、まずは振りを固め、それから自分の考えるオネーギン像を作り上げていこうと思っています」。
リハーサルと稽古に追われて読書の時間がなかなか取れない日々。
「バレエの原作以外でも、時々は小説も読まなくては……と思いつつ、スケジュールに追われてしまい、家に帰るとリビングでバタン、という毎日で……。小さい頃は『エルマーのぼうけん』などは好きでしたし、『ハリー・ポッター』も読んだのですが。あとは漫画ですが、横山光輝さんの『三国志』にはハマって、友達と夢中で読みました。ドイツ留学中は普通の公立の中学校に通っていたので、全部ドイツ語の本を読んで読書感想文も書きましたが、内容はもう正直あまり覚えていないですね。海外ツアーなどで飛行機での時間が長い時には、電子書籍を買ったりもします。映画を観るとその原作に興味をもつタイプなので、たとえばNetflixで話題になった『地面師たち』の小説版は、読んでみたいかもしれません」。
小説を手に取るには少し敷居が高いという宮川さんに編集部がおすすめするのは、バレエを描いた作品。ご自身の環境と近かったり違ったりを比べながら浸ってみるのはいかがでしょうか。
川端康成『舞姫』新潮社
バレエ教室を主宰する波子の夢は、娘の品子をプリマドンナにすることだった。暮らしが苦しくなる中で波子の心の支えは、過去の恋人。一方で品子はバレエをやめて伊豆に暮らすかつての師を慕っていて……。空前のバレエブームに沸く戦後の、没落しゆく上流家庭の母娘を描いた作品は、70年以上の時を経た今なお新鮮。
https://www.shinchosha.co.jp/book/100248/
恩田陸『Spring』筑摩書房
主人公は8歳でバレエに出会い、15歳で海を渡りドイツのバレエ学校で学んだ唯一無二の舞踊家にして振付家。「俺は世界を戦慄せしめているか?」を問い続け、舞台の神を追い求めた天才ダンサーを巡る物語。単行本にはページをめくるとダンサーが動く「パラパラ漫画」がついています。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480805164/
東野圭吾『眠りの森』講談社
名門バレエ団の事務所で画家が殺された。被疑者はバレエ団のプリマの一人。バレエ団側は正当防衛を主張するが、捜査の結果、幾つかの不審点が浮かび上がる。そんな中、今度はバレエ団の敏腕演出家が毒殺される……。人気の加賀恭一郎シリーズの第2作としてバレエ界の人間模様を描いたミステリー。
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000161302
バレエへの扉を開く、ドラマティックな舞台は必見!

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チャイコフスキーの叙情豊かな音楽にのせて、男女をめぐる出来事が描かれるバレエ『オネーギン』。
オネーギン役の宮川新大さんは「タチヤーナにひどいことをして決闘まで巻き起こすオネーギンですが、彼にはタチヤーナが恋に落ちてしまうようなカリスマ性や都会から来たスマートさもあると思います。パッと見たけで惚れてしまうような色気や佇まいがあるからこそ物語が始まるので、そのあたりの印象を大切に“ザ・ドラマティック・バレエ”に挑みたいと思います」と舞台への抱負を語ります。
タチヤーナ役の秋山瑛さんは「今はタチヤーナという女性に向き合って、どんなふうに演じていこうか探している最中です。『オネーギン』という作品は、綺麗な部分だけでない、自分でどうしようもできない感情やその時々によって起こる人と人との気持ちの交差の積み重なりによって物語が進んでいきます。舞台を見にきてくださった方々に、その場で起きる本当の出来事のように感じていただけるよう、リハーサルを積み重ねていきたいと思います」と意気込みを言葉にしました。
最後に原作とバレエの関係について「僕らはダンサーなので、ジョン・クランコさんによる振り付けの意図を感じ取ることで作品を仕上げていきますが、そこにはもちろん原作に基づいた部分もあると思います。お客様には原作と照らし合わせて観ていただくのも良いと思いますし、公演を観て書籍を読んでみたいと思う人がいたら、それはそれで違った作品の見方ができるのもしれません」と、宮川新大さん。
読んでから観るか、 観てから読むかは、あなた次第です!
もっとバレエが楽しくなる、おすすめ解説本3選
『バレエStory30選 桜沢エリカと楽しむ名作の世界』世界文化社
バレエ好きで知られる漫画家の桜沢エリカさんによる美しいイラストやマンガとともに、名作のあらすじ、鑑賞ポイント、歴史なども紹介。もちろん『オネーギン』の紹介も。
https://books.sekaibunka.com/book/b10194810.html
薄井憲二『バレエ千一夜』新書館
バレエを長年にわたって紹介しつづけてきた著者による入門書。バレエの系譜、作品についてのエピソード、いろいろなバレエ団の『白鳥の湖』など多角的に解説。
https://www.shinshokan.co.jp/book/b567798.html
『不屈の魂で夢をかなえたバレリーナ ユカリーシャ』文藝春秋
東京バレエ団団長・斎藤友佳理さんの半生を綴った一冊。大怪我からの奇跡の復活、念願の舞台復帰から、特別篇『オネーギン』を新たに書き下ろした決定版。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167801113
『オネーギン』
2026年11月6日(金)〜11月8日(日)
https://thetokyoballet.com/performance/onegin2026/
会場:新国立劇場オペラパレス(東京・初台)
入場料:D席¥6,000〜S席¥18,000(一般) U35シート¥4,000(公演当日、35歳までの方が対象。詳しくはwebサイトを参照)出演者:
11月6日(金) 19:00開演
オネーギン:柄本 弾
タチヤーナ:沖 香菜子
レンスキー:大塚 卓
オリガ:工 桃子
グレーミン公爵:安村 圭太11月7日(土) 13:00開演
オネーギン:宮川 新大
タチヤーナ:秋山 瑛
レンスキー:池本 祥真
オリガ:足立 真里亜
グレーミン公爵:樋口 祐輝11月7日(土) 18:30開演
オネーギン:柄本 弾
タチヤーナ:沖 香菜子
レンスキー:生方 隆之介
オリガ:中島 映理子
グレーミン公爵:安村 圭太11月8日(日) 13:00開演
オネーギン:宮川 新大
タチヤーナ:秋山 瑛
レンスキー:池本 祥真
オリガ:足立 真里亜
グレーミン公爵:樋口 祐輝