偏愛レボリューション
比べてみると個性いっぱい♪【ショートケーキ】を愛する森岡督行さんを取材!
[LaLa Begin2022-2023年 12-1月号の記事を再構成]
偏愛レボリューション~Vol.16「東京ショートケーキ」森岡督行さん
目の前に並んだ沢山のショートケーキに、この表情。
今回の偏愛ビトは“一冊の本を売る本屋”というコンセプトで、その本に派生した展示やイベントを行う銀座の書店兼ギャラリー「森岡書店」の店主、森岡督行さんです。アートやデザイン、建築、文学など、さまざまなジャンルに精通する識者としての顔とは別に、実は無類のショートケーキ好きというB面をお持ちなのです。
そんな森岡さんの偏愛熱を調査すべく、書店のある銀座からも近いエリアでオススメのショートケーキを一堂に揃えてみました!
ふたつとして同じものはありません
森岡さん、どれから食べますか?
「うーん迷いますね。というかこの景色がもう幸せですよねぇ。よく見てるケーキなんですけど、こんなに一堂に会すことは無いので」。
ちなみに一番好きなケーキはありますか?
「一番というのは決めがたいですが、やっぱり好きなのは〈和光〉のショートケーキ(下)ですね。上品な甘さの正統派で、大きさも程よくて、スライスしたいちごと生クリームの層と、スポンジの層の厚みが見事に揃っていて美しいです。フォークもスッと入るし、口の中でとろける感覚です」。
森岡さんお気に入り〈和光〉の「フレージェ」。「粉砂糖が掛かっているものとそうでないもの、味の違ういちごが2粒乗っているのは和光からの提案だと思ってます」
この佇まいと品の良さが銀座メイドですね。
「まさに。毎日銀座の和光アネックスの上階にあるアトリエで手作りされている銀座メイドです」。
「〈資生堂パーラー〉はこの佇まいと断面の美しさがTHE TOKYO!という感じでワクワクします。スタイリッシュな箱や紙袋も素敵なので、テイクアウトしたくなる」
ショートケーキはお店で食べることが多いですか?
「和光はティーサロンでいただく時間の特別感がたまらないです。でもテイクアウトでも買いますよ。たとえば資生堂パーラー(上)なんかはブルーのスタイリッシュなボックスや紙袋も楽しみのひとつですし、近江屋洋菓子店(下)はノスタルジックなイラストの包装紙や箱も有名で、やっぱりかわいいです」
いちごが10個、小さなホールケーキのようなボリュームに背徳感がたまらない〈近江屋洋菓子店〉の「苺サンドショート」。包装紙と同じクラシックな箱も魅力。
ショートケーキが好きになったのはいつ頃ですか? 何かきっかけが?
「実家は山形なんですけど、幼少期、昭和な感じのショートケーキと、なぜか(父が好きだった)蛸が食卓によく並んでいたなっていうのが原点です。おぼろげながら嬉しい記憶だったのかな。それで甘いものやショートケーキ自体は好きだったんですけど、意識して食べるようになったのはここ数年なんです。コロナであまり遠出ができなくなった時に、森岡書店のある銀座にあらためて目を向けてみたら、ここにはあらゆるショートケーキが、しかも最高峰のショートケーキがたくさんあるじゃないか、って気づいたんです。普通、ある分野の最先端や最高峰を体験しようとするとものすごい額になってしまいますよね。でもそれがショートケーキなら、どんなに贅沢をしても数千円で味わえちゃうというのも魅力で。真っ白いクリームにふわふわのスポンジにツヤツヤのいちご。ああ罪深い……なんて思いながら、僕はその罪深さごと全部許してます(笑)」
レイズン・ウィッチが有名な〈巴裡 小川軒〉はどこか懐かしいのに洗練された味。蜜の掛かった大粒のいちごと、店名の入ったフィルムや敷紙がほっこりした雰囲気。
時代を超えて愛されるしあわせの記憶
「ちょっと蘊蓄っぽくなっちゃうんですが……ショートケーキの起源には所説あるんですけど、元々海外ではビスケットのようなサクサクした生地に生クリームといちごを重ねたものだったのを、日本人の口に合うようにスポンジにアレンジしたのが、今の日本ならではのショートケーキの先駆けじゃないかって言われています。日本での発祥にも所説あるんですが、不二家がそのスタイルのショートケーキを販売開始したのが1922年なんです」。
なんと! 今年でちょうど100年なんですね。
「そうなんです。それもあってますますショートケーキが気になってしまって。食べるたびに絵で記録したりしています。実は来年書籍も発売する予定です」
九段下の〈ゴンドラ〉はパウンドケーキが人気ですがショートケーキも美味。洋酒を感じるスポンジは黄身の色がしっかり。「こうやって他と見比べると個性でますね」
ショートケーキってその見た目や美味しさはもちろんですが、幼少期のバースデーケーキとか“しあわせの記憶”でもありますよね。
「そうですね。無条件に高揚してしまうのもそれが大きいんだろうなって思います。書籍のこともあってこのところショートケーキのことを考えていると、大げさかもしれないんですが、ショートケーキはいわば茶室といえるかも、なんて思うことがあるんです」。
茶室?
「欧米のお菓子に憧れて伝統を大事にしながらも、日本ならでの細やかな工夫や時代に合わせて少しずつ近代化していった100年の歴史と革新が、この15口ぐらいの、時間にしたらほんのわずかな中に詰まってる気がするんです」。
「ふわふわと軽い食感にいちごが3粒も乗った〈アンリ・シャルパンティエ〉は『ザ・ショートケーキ』の名にふさわしい王道な味で、素晴らしく愛に溢れてます!」
たしかに、王道すぎてごまかしが利かないからこそ、海外に比べて日本独自の繊細な技術や味の違いが際立って、長く愛される国民スイーツになっているのかもしれませんね。生クリームにスポンジに甘ずっぱいいちご。カロリーは罪深い、けどやっぱりこの味はしあわせの味。たくさん食べちゃったけど許そう……。
森岡督行(よしゆき)さん
神保町で書店員として働いたのち、一冊の本を売る書店「森岡書店」をオープン。展覧会の企画協力や書籍の企画・編集・執筆など、様々な仕事を手がけながらショートケーキ探求に勤しむ。
調査報告
撮影のために集めたショートケーキを箱から出すたびに、わぁすごい!すごい!と、子供のようにとにかく嬉しそうだった森岡さんがとても印象的でした。写真(ページ上)にも表れてますよね。来年発売されるショートケーキにまつわる書籍も、どんな愛がほとばしってるのか、楽しみです。
偏愛調査員
オモムロニ。
雑貨コーディネーター。ユニークでグッドデザインな日用品や手みやげのセレクトが得意。偏愛ジャンルは、プロ野球、ハロプロ、猫。著書に『DAILYGIFTBOOK気持ちが伝わる贈りものアイデア』(文藝春秋)がある。Instagram:@omomuroni
連載
偏愛レボリューション
偏愛は毎日をちょっと楽しくする小さな“革命”! どんなにマニアックだとか、ファン歴なんて関係ないのです。いつの間にか夢中に……あぁ、“好き”があるってしあわせ。そんな偏愛ビトをレポートします。
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※各店のケーキは季節によりフルーツやトッピングデザイン、取り扱い状況が変わる場合があります。
※掲載内容は発行時点の情報です。
[LaLa Begin2022-2023年 12-1月号の記事を再構成]写真/押尾健太郎 インタビュー・文/オモムロニ ©TOKYO-SKYTREE