Begin Market(ビギンマーケット) COLUMN ARTICLES まだ誰にも知られていない【C級スニーカー】の魅力とは? 永井ミキジさんに聞きました!

2024.09.10

偏愛レボリューション

まだ誰にも知られていない【C級スニーカー】の魅力とは? 永井ミキジさんに聞きました!

[LaLa Begin2021年 10-11月号の記事を再構成]

偏愛レボリューション~Vol.9「C級スニーカー」永井ミキジさん

「こんなスニーカーあるの⁉」

今回の偏愛ビト、永井ミキジさんが履いていた、JRのロゴが入ったスニーカーに一目惚れしたのが数年前。彼の20年来のコレクションのひとつ、“C級スニーカー”をまとめた本が発売になったと聞いて、その一部を見せてもらいながら、“C級スニーカー”の魅力を調査してきました。誰にも知られてないお宝を探し出す楽しさ、教えてもらいました!

愛を持って“C級”と呼んでます

撮影のために持ち込まれた2個のコンテナには、湿気を嫌うためにラップでぐるぐる巻きになったスニーカーがぎっちり。ラップを外して並べたコレクション(上写真)を見ても、パッと見てわかるブランドが一つもありません。

とにかく珍しいってことはわかるんですが、 “C級スニーカー”のC級って?

「簡単に言うと、日本でほとんど流通していないブランドや倒産したメーカー、誰にも知られてないようなマイナーなスニーカーのことです。ここにあるのは主に1970〜80年代にジョギングブームが起きた頃、ナイキやアディダス人気の波に乗ろうとして、アメリカを中心にいろんなメーカーがスニーカーを作っていたものです」

あの有名マークが反転したかのような大胆な〈Raff’s Shoes〉は最新著書『C級スニーカーコレクション』の表紙にも。

90年代になると、ハイテクスニーカーブームとかありましたよね。

「ハイテクはあんまり興味なかったけど、もともとは僕も王道なスニーカーもヴィンテージも履いてました。でも一つひとつが結構高い……。靴以外にもいろいろ欲しいものあるしなぁ、と思っていた頃にたまたま、見たこともないブランド名やデザインのスニーカーに出合って、あの時代特有のカラーリングやローテクな雰囲気に惹かれたんです。でもほとんど知られてないから安い。この青いUCLAのとか〈オサガ〉(下写真)とか、今は保管用にしてますが、最初はコレクションするつもりはなくて、普通に毎日履きつぶしてました。」

C級スニーカーに一番夢中になっていた頃に履いていた〈オサガ〉。雑誌にもノーブランドと表記されるほど無名な存在だったそう。

「古着屋さんとかフリマとか、日々気にして見ているうちに、知られてないものの中にもかっこいいスニーカーがたくさんあるぞって気づいて。“C級”って王道やヴィンテージに比べて下に見てるとかではなくてあくまでマイナーだという意味で、愛を持ってそう呼んでます。マイナーなものへの興味が広がって、最近は非売品とかブート品とかにまで手を出すようになっちゃったんですけど」

1982年の映画『E.T.』公開時に販売されたモデル。ナチュラルなカラーリングがかわいい。キッズサイズしか無いのが、んー残念!

たくさんのムダの中から宝物を探す

当時はまだインターネットもなくて、もちろん雑誌にも載ってないし、コレクター仲間もいない。どうやってその偏愛が加速していったんですか?

「そう、誰も自慢する人もいないから孤独な修行です。でも昔高円寺に1軒だけマイナーなブランドを扱うスニーカーショップがあったんです。その店主が本当に凄い人で、今思えばその人と話がしたくてのめり込んでいった気がします。『スニーカーの世界は365足持ってからがスタートだから(絶対に集めるな)』って言われたのを勘違いして、365ブランド集めようとしてた時期もありました」

サイドのジッパーポケットに鍵や小銭を入れておける、ギミックがユニークな〈カンガルー〉は著書にも数多く紹介されています。

ちなみに今ってどのくらいの数持ってるんですか?

「多い時は1000足以上持ってたけど、スニーカーの宿命“加水分解”でダメにしたりもして、今はだいぶ減りました。これはスニーカーに限らずなんですけど、ネットでいろんな情報が得られるようになったり入手の選択肢が増えてくると、数を集めるってことにこだわりもなくなってきて、これはほしい、集めたいと思う基準が、いかに自分らしいか、無条件にワクワクするものか、思い入れがあるか、に変わってくるんです」

1984年ロス五輪の盛り上がりに便乗して、アメリカでは無名の業者が勝手に製作したスニーカーがたくさんあったそう。おおらかな時代!

ミキジさんが“C級”と呼ぶ以前に、誰にもまだカテゴライズされてないものを探すってけっこう大変だと思うんですけど……

「先行して調べて情報を見つけてわざわざ買いに行くような、“自分から取りに行く”みたいな探し方ってあまりしないんです。僕がスニーカー以外にもいろんなものを集めてるからっていうのもありますが。たとえば今日の服装も、古物商の先輩から鉄道のナッパ服の存在を聞いて、普段着にいいなと思って鉄道グッズの催事に行ったら気になる出店者に出会って、その後お店に行ってみたら偶然このJRのスニーカーがあったんです。」

ヴィンテージのミリタリーにも見えるJKは旧国鉄時代の作業服(ナッパ服)を刺繍でカスタム。足元はJR東日本の職員用スニーカー。

「だいたいそんな感じで、興味が脱線していって、偶然目の前に現れる。その偶然がたまらなくて、どんなに無駄足だとわかっていても、とにかく歩くんです。目的を決めて最短ルートで行動してると起こらない奇跡や発見が楽しいし、その道中がものへの思い入れにもなる。僕はコレクターではあるけどマニアではないなと思ってます。自然と知識は深く濃くなっていくんですが、突き詰めて掘り下げて研究することに重きを置いてないし、コンプリートするみたいな集め方にも興味がないんです」

なんて果てしなく非効率……でもだからこそ、ミキジさんのオリジナルな視点が一目置かれているのですね。これって私たちが何かものを集めようと思ったとき、意外と大事なことかもしれないなぁ。

グラフィックデザイナー。あらゆる“面白くて珍しくて古いもの”を独自視点で収集している、雑貨好きには知られた存在。最新著作に『C級スニーカーコレクション』(グラフィック社)。

調査報告

スニーカー以外にも古物、ふくろうモチーフ、パッケージなど、あらゆるものを集めるミキジさん。「お金をかければ集まるものには惹かれない」という言葉が印象的でした。価値があるから、レアだから、ではなく、純粋にワクワクするものを。当たり前だけど、意外と忘れてしまいがち。

※掲載内容は発行時点の情報です。

[LaLa Begin2021年 10-11月号の記事を再構成]写真/押尾健太郎 インタビュー・文/オモムロニ。

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