贈りもの上手の真心ストーリー
【贈りもの】ライター・碇 雪恵さんの心に残る“真心ストーリー”とは?
心のベストテン第一位はこんなお菓子だった
贈り物とされるものの中で、人生において一番多くもらってきたのは、退職の際のちょっとしたギフトなんじゃないかと思う。良心的な人びとはみな、職場を去る際残されるものたちにちょっといいお菓子を配るものである。会社員だった頃、去り際のお菓子を何度受け取ったことだかわからない。そういった去り際ギフトのほとんどは、その日の残業の最中に食べ切って2度と思い出すこともないけれど、というと冷たい人間のようだけどそれは実際にそうで、それはともかく、「彩果の宝石」のフルーツゼリーだけは忘れられずに心のなかで燦然と輝きを放ち続けている。小粒なフルーツゼリーにぎゅっと詰まった果実味。口に含めばときめきが全身に駆け巡る。私は子どもの頃からカラフルで半透明な物体に弱く、このお菓子はまさにその条件にも当てはまるため、味覚だけではなく視覚からも喜びをもたらしてくれる。
とあるささやかなお祝いの席。祝われる立場だった私は、祝ってくれる友人たちにも感謝の意を表したく、その品として「彩果の宝石」を選んだ。友人たちにお花をもらい、写真を撮ってもらったのも束の間、「私からも渡したいものが!」と返す刀で用意してきた贈り物を渡した。が、帰ってから反省した。祝われる側のターンをもう少し噛み締めた方が良かったんじゃないか、と。自分は祝い甲斐のない人間なのかもしれないと自覚し、もし今後の人生でまた祝われることがあるとしたら、その時にはもう少し「祝われ」の恥ずかしさやくすぐったさに耐えたいと誓ったのだった。肝心の「彩果の宝石」は、友人たちからも好評だった。
ところで現在は会社員ではなく、フリーランスとして仕事をしているため、去り際ギフトともすっかり縁遠くなってしまった。誰からも監視されず、形式だけの会議に出る必要もなく、夜型の体質に合わせた時間帯に働くことのできる今の環境が気に入っている。だけど時々、同僚との何気ない雑談、残業中の差し入れ、そして去り際ギフトを懐かしく、少しだけ恋しく思ったりする。
ライター
碇 雪恵 さん
2022年11月にはエッセイ集『35歳からの反抗期入門』、2023年5月には植本一子、柏木ゆかと共に『われわれの雰囲気』を自主制作。新宿ゴールデン街にあるプチ文壇バー『月に吠える』の金曜店番。
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トミゼンフーヅの彩果の宝石
世界各国から厳選した果実のうまみを閉じ込めた1口サイズのゼリー。愛らしいデザインと絶妙な食感で老若男女問わず愛される。15種、44個入り 2160円(トミゼンフーヅ)
連載
贈りもの上手の真心ストーリー
贈りものって、贈る側になると存外悩ましい。相手に重荷にならないかな、気に入ってもらえるかな、なんて頭を悩ませてしまう。贈りもの事情をリサーチしたら、おすすめの品はもちろん、何よりも心得が大事ってわかりました。ギフトシーズンに贈るのも贈られるのもうれしくなる、真心ストーリーをお届けします。
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※掲載内容は発行時点の情報です。
[LaLa Begin 2023年 12-1月号の記事を再構成]photo : Shunsuke Musashi