装い今昔物語
80~90年代のスタイリストブームって⁉『POPEYE』と『an・an』から当時の様子を紐解く
スタイリストが憧れだった90年代の『POPEYE』と80年代の『an・an』
いであつこ
仏・イボルンヌ大を首席で卒業。平成服装女子学院トレンドマスコミ学部准教授。服飾誌研究家として活躍中。コラムニストのいであつしとは双子の兄妹。
みなさんがいま読んでいる『ララビギン』もそうですが、ファッション雑誌は、スタイリスト、ヘアメイク、カメラマン、モデル、ライターと、様々なプロの仕事をこなす人たちが関わってページを作っています。SNSが発達して紙のメディアにかつてほどの影響力がなくなったとはいえ、それは昔も今も変わりはありません。
なかでもスタイリストというお仕事は、憧れのファッション業界で働く人気のカタカナ職業としてブームになった時代もあります。
スタイリストブームは、メンズファッション誌が続々と創刊された1990年代と、スタイリストという職業がファッション雑誌の表舞台で知られるようになった、80年代の2度ありました。
90年代のスタイリストブームは、男性スタイリストが今でいうインフルエンサーとして人気になりました。メンズファッション誌では本業のスタイリストだけでなく、彼らのプライベートや着こなしが特集されたりしました。
なかでも大人気だったスタイリストが、野口強さんと祐真朋樹さんです。1997年の4月10日号の『POPEYE』を紐解いてみると、「次、狙うべきモノはカリスマに聞け!」という特集号で「お洒落な男はみんな独自のスタイル! ここに登場する洒落者たちは、センスにかけては絶大な信用ありのまさにファッションカリスマだ」という見出しで、藤原ヒロシさんや『アンダーカバー』の高橋盾さんと並んで祐真朋樹さんが「流行ものは買って着てみる。それが僕のプロとしての信条」というコメントとともに誌面に登場しています。野口強さんにいたっては「ファッションカリスマのベストチョイス」というページで自らモデルになって、トレードマークのロングヘアを片手でかきわけて「グッチ」のビットモカシンやレザージャケットやスーツをお洒落に着こなしています。
80年代のスタイリストブームは、まるまる一冊人気スタイリストが責任編集してファッションだけじゃなく趣味や着こなしを紹介する本が発売されるなど、スタイリストというお仕事がファッション業界で活躍する憧れの職業として、もてはやされた時代です。
その先駆けともいえる雑誌が、1980〜82年に発売されたスタイリストの原由美子さんのムック本『原由美子の世界』です。70年代から『an・an』などで活躍する大御所スタイリストで、高田賢三さんや川久保玲さんとも親交があり、スタイリングはもちろんのこと、ご本人の知的で大人かわいいフレンチシックな着こなしがとても素敵で憧れました。
原由美子さんに続けといわんばかりに、当時の『an・an』は人気スタイリストを続々と輩出しました。スーパーカジュアルが上手な貝島はるみさん、「イリエ」や「ケンゾー」を使ったパリジェンヌスタイルが得意な柴田かえさん、人気モデルの甲田益也子さんやくればやし美子さんを起用したスタイリングが素敵だった堀越絹衣さんほか。1982年にはその名もズバリな『スタイリストの本』も発売されます。まさに80年代はスタイリストの時代なのでした。
(おせっかいな)ファッション用語辞典
アンダーカバーの高橋盾さん
90年代の裏原宿ブームに設立された今や「コムデギャルソン」と並びパリコレでも人気のファッションブランド。デザイナーの高橋盾さんの愛称ジョニオはセックスピストルズのジョニー・ロットンに似ていることに由来。
グッチのビットモカシン
言わずとしれたイタリアのラクジュアリーブランド、「グッチ」を代表するアイテム。甲に馬具を模した飾り(ホースビット)がついたモカシン。ダスティン・ホフマンなどハリウッドスターも愛用。プレッピーにもよく似合う。
イリエやケンゾー
80年代、パリジェンヌに大人気だった2大ブランド。デザイナーは入江末男と高田賢三。特にイリエの「マイクロミニ」という膝上丈の長短丈スカートにライダーズジャケットを合わせるスタイルはパリジェンヌの定番だった。
※掲載内容は発行時点の情報です。
[LaLa Begin 2023年 12-1月号の記事を再構成]text : Atsuko Ide comic : Takahiro Shimada