偏愛レボリューション
みうらじゅんさんの“偏愛”を調査!〈マイブーム〉をより楽しむ方法とは?
[LaLa Begin 2023年 8-9月号の記事を再構成]
偏愛レボリューション~Vol.20「キープオン偏変愛」みうらじゅんさん
様々な偏愛ビトを調査してきたこの連載も今回が最終回。偏愛といえばこの人は外せない!ということで、数々のマイブームや概念、独特すぎる収集アイテムで知られる、みうらじゅんさんの登場です。ものを集めることとは。偏愛を偏愛し続けるためには。ラストにふさわしく、金言だらけの調査となりました!
黄色い帽子のおじさん=無怒菩薩。黄色というより、もはや黄金なんだと思う

「おさるのジョージの“黄色い帽子のおじさん”が近頃気になる。ジョージに何をされても怒らないし、黄色いのは帽子どころか全身だよね」
幼少期から御朱印を集めたり仏像のスクラップブックを作っていたそうですが、最初から何かを集めるっていうことはお好きだったんですか?
「ものを集めるってむなしいっていうか、限界があるなっていうことに、じつは割と早くから気づいてたんですよ。小学1年生で怪獣にグッときて怪獣写真のスクラップを始めたんですが、その後、世間的にもブームが来てね。グッズもたくさん出回った。でも、たいして怪獣に思い入れのないクラスメイトまで買うようになって。そのときに、流行ってつまんないなと思ったんです。だから自分はまわりが興味のないようなものにいこうと思ったんですよ。みんなが知らない世界にね」
小学校低学年で、すでに〈マイブーム〉の概念があったんですね。
「古美術好きなおじいちゃんに導かれ、小学4年生から寺通いでした。まだ、寺のグッズなんてたいして出ていませんから、御朱印を集めだしたんです。僕としてはそれ、『仏像のサイン』だって思うようにしてましたから。いや実際は寺務所の方が書いてるんですがね、自分をさらに燃え立たすため思い込む。そうした自分洗脳が好きになるには必要ですから。僕、中学生になってから自分の部屋を〈イマ寺院(イマジイン)〉って呼んでたんです。もちろん、これはジョン・レノンの影響でしたけどね(笑)」
イマ寺院(笑)! 最高ですね。今回はみうらさんが名づけた数々のネーミングについても由来やエピソードを聞けたら、と思っていたんです。
「いや、だって自分で考えるしかなかっただけですよ。たとえば〈いやげもの(=もらってうれしくない嫌なみやげもの)〉だってそんなものは存在しないじゃないですか」
「でもその世界観にグッときちゃったもんだから、少しでも自分を洗脳して好きになっていかなきゃなんない。そのためには“ない世界”にネーミングがほしくなるんです。その世界がさも、“ある”ように見せるためにはね」
ちなみにそのネーミングは、どのタイミングで思いつくんでしょう?
「1個や2個手に入れたくらいじゃ思わないですよ。周りからお前、DS(どうかしてる)って笑われたときに、これは〈いやげもの〉というジャンルなんだから、と言い訳のように作るんです。でもそれが本当に認められたときは、ちょっと熱が冷めちゃうんだけどねえ。〈ゆるキャラ〉がそうだったように」
他にも〈墓マイル〉とか〈老いるショック〉〈権威コスギ〉とか、何それ?ってツッコみたくなる独特のネーミングをたくさん生み出されてますよね。
「マイナス転じてマイブーム。ネーミングさえあれば、みんなも深刻ぶらないで済むんじゃないかと思って」
信じられるものは、〈マイ価値〉イッパツ。
最近は、偏愛という言葉そのものもブームづいているというか、あらゆるジャンルにマニアがいるなって思うんですが、みうらさんが何かを集めはじめたとき、もう先駆者がいたり、既にその世界が“ある”ってわかったらどうしますか?
「たとえば水道トラブルとかの販促用のマグネット、あれはね、すでに集めてる人も当然いると思いました。でも、それにピッタリなネーミングがないんじゃないかと思って〈冷マ〉と名づけました。その瞬間に急にグッときましたよ、僕は」
「そうやって自分の中でブームになったときに、俄然加速するんですよ。ただ集めるってことじゃないマイ価値感。マイルールでものを集めると断然楽しいかなって」
大事なのは、自分にグッとくる“マイ価値”があるかどうか

「還暦になったあたりでまずは〈老いるショック〉が来たんだけども、最近はむしろ〈老け作り〉ブームが来てるよ。若作りの反対ね」
自分だけのグッとくるポイント、マイ価値が偏愛を偏愛し続けるために必要なんですね。みうらさんが今の時代に若者だったら……
「間違いなくユーチューバーになってますよ。めっちゃ迷惑がられてると思いますが、そこは自信あります(笑)」。
でも絶対に局地的な人気者になってそうですよね。
「どうかなー。そこはあくまで自分じゃなく、“ない”ジャンルのものが人気者にならなくちゃね。だから、他人から何か言われて落ち込んだり、反省してたりしたら先に進まなくなっちゃうので、ネットは今でもほとんどやらないんです。やっぱ、発信しっぱなしっていうのが性に合ってるんでしょうね」
みうらじゅんさん
1958年京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーターなど、作家など、多方面で活躍し、いうなれば職業は“など”業。著書に『「ない仕事」の作り方』など。
調査報告
無いものにネーミングをつけて集めているとその世界が有るような気がしてくる、という話が印象的でした。〈ゆるキャラ〉も当初は「うちはそんな適当に作ってない」と怒られてばかりだったそう。私も大掃除を「捨てフェス」と名づけて早数年。一向に広まる気配がないですが、マイ価値を貫こうと思います。
偏愛調査員
オモムロニ。

雑貨コーディネーター。ユニークでグッドデザインな日用品や手みやげのセレクトが得意。偏愛ジャンルは、プロ野球、ハロプロ、猫。著書に『DAILYGIFTBOOK気持ちが伝わる贈りものアイデア』(文藝春秋)がある。Instagram:@omomuroni
連載
偏愛レボリューション

偏愛は毎日をちょっと楽しくする小さな“革命”! どんなにマニアックだとか、ファン歴なんて関係ないのです。いつの間にか夢中に……あぁ、“好き”があるってしあわせ。そんな偏愛ビトをレポートします。
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※掲載内容は発行時点の情報です。
[LaLa Begin 2023年 8-9月号の記事を再構成]photo : Kentaro Oshio text&interview : omomuroni。